ジブリが萌えアニメをつくったよ。〜借りぐらしのアリエッティ〜

 物語作品には表向きのテーマと裏のテーマがあります。
「サルでも描ける漫画教室」でも指摘されていたことなんだけど、例えば、「戦争もの」の場合、表向きのテーマは、反戦。戦争によって引き起こされる悲劇を描写することによって、戦争ってよくないよね、という話に持っていく。
 でも、製作者としては、それだけで作っているわけではなくて、単純に戦闘機かっこいいからドイツ軍かっこいいから戦車かっこいいから、とか、その辺で戦争の話をつくるモチベーションになったりします。さらには残酷描写もやりたいなぁ、とか、他人の不幸って気持ちいいなぁ、とか、そんなちょっと歪んだ思惑もあったりするかもしれません。


 ジブリの映画にも表向きと裏のテーマは存在していて、表向きのテーマは毎回いろいろ変わるけど、裏のテーマは「女の子かわいいよね」「俺こんなにバシバシ絵を動かせるんだぜ」の二点でほとんど固定されてる、と感じるわけです。
  例えばポニョだったら、表向きのテーマは「友情の前には種族の差なんて関係ないよね」で、裏は「大橋のぞみちゃんかわいいよね」「ポニョかわいいよね」あるいは「波の上走るポニョ最高!!」となるわけです。


 で、今回のアリエッティなんですけど、もうテーマは「アリエッティかわいいよね」で間違いないです(^^。
 一応、宮崎駿さんは、「借りぐらし」という概念が大衆消費の終焉を迎えた現代の潮流に合ったものだ、みたいなことを言っていますが、鈴木さんのインタビューとかコラムとか見ていると、あきらかに後付けだとばらされています(^^;


 まぁ正直そんなの関係無くって、とりあえずアリエッティかわいい、で十分です。「アリエッティ」はそんな作品です。
 では、アリエッティのかわいさ、というものはどこから生まれるんでしょうか。
 ジブリヒロインとしてのアリエッティの特徴が何なのか、ですけども、顕著なのは、まず、アリエッティは「考えてから行動する女の子」だ、ということです。
 宮崎駿さんのヒロイン、ってあれこれ悩む前にまず行動する、というキャラが大半、というか、全部そうじゃね?って勢いです。
 ソフィーとか、ノリでハウルの城に住み込んで彼との距離を縮めて行くわけですけど、きちんとした思惑があってやっているように見えません。ひたすらガンガン攻めている。
 ナウシカも、いきなり装甲兵に斬りかかってユパ様に止められるし、腐海でマスクを取って胞子を肺に入れてしまったりする。
 キキは落ち込みを経験するけれど、あれはとりあえず行動を行った後、壁にぶつかったゆえの悩みであって、本質的には、まず行動タイプ、なんですよね。
 ヒロインが能動的である、ということは、物語を展開していく上で大きなメリットとなるので、まぁ当たり前といえば当たり前の選択ではあるんですけど、ちょっと極端かな、という気はしていました。
 アリエッティはその点、少し異質なものを感じました。彼女は一つの行動に対して、失敗にはすぐ反省する。同じ失敗を繰り返さない、という意志が見て取れます。
 なによりまず、彼女は必ず明確な意図を持って行動しよう、とするんですよね。そこがたまらなくかわいい。
 ソフィーの行動理念が私にとって非常に難解だったので、結論として、とりあえず動け、的なものを感じてしまったのとは、かなり対照的な部分だなぁ、と思います。
 そしてアリエッティのその行動の意図がわかるからこそ、その意に反する現実の厳しさが、自然に伝わってくるんですよね。


「君たちは滅びゆく種族なんだ」


 んなこといきなり笑顔で静かに言われたら、どうしようか、と思いますよね。
 まさにこれが逆境だ!!!というか(^^;。


 「アリエッティ」は基本的に延々とミクロの世界を描いた作品なんですよね。目に見えるもので構成されている。
 舞台はある家とその周辺せいぜい数百メートル四方の話でしかない。


 そして、アリエッティはその中で更に狭い範囲のみで今まで生活してきたわけです。
 コミュニケーションは家族3人の間のみで成立していた。彼女の世界はそれが全てだったわけです。彼女は14歳という設定ですが、より幼い思考を持っていても仕方がない環境です。親のいうことだけ聞いて、失敗したら親のせいにしていても、生活していけるはずです。
 しかし、アリエッティは、明確な自分の意志により自分の行動を決定して行こうとする。それも周囲のあらゆる情報を考慮の上で、最良の選択をしようとする。選択を他人任せにしない。おそらく彼女の本質がそうさせるのだろうと思いますが、それがたまらなく愛おしい。


 その行動方針が、最も顕著に現れたのが、母の失踪に直面した場面だと思います。
 それまでの展開の中で、父親からは人間(人間側の主人公「翔」)に近づくな、と厳命されており、アリエッティも理論的にそれを受け入れ納得していました。
 しかし、緊急事態に陥ったとき、彼女は思考を巡らせて翔を頼ります。
 その思考判断、というものが伝わってくる演出が非常によかった。
 アリエッティの感情がシームレスに微妙に変化するところを描いているんですよね。
 微妙な表情の変化については、ほぼ全編通して丁寧に描きこまれている。
 ポスターなどの販促の絵はむしろ仏頂面っぽい描かれ方をしているのですが、これは彼女のほんの一部を一瞬だけ切り取ったものに過ぎない。
 この世界のどこかで生きる彼女は、スチルでは写しきれない、あふれる魅力を持っている。
 そんな彼女を描く、そのために、ジブリの突出したアニメ制作力が惜しみなく使われる、その歓喜は、他に例えようがありません。


 アリエッティ」は素晴らしい。まだまだ全然書き切れない。ああ全然だね!!

ということで、次に続きます。

 
 とにかくみなさん、見てみてください。評価には個人差が出ると思いますが、私個人としてはハウルやポニョを遥かに凌駕した作品だと思っています。