小説アップロード

 小説を書き上げましたので、
 こっそりとアップロードしておきます。(追記:H24/7/24 B5印刷用ファイルをアップロードしました。記事の最後のところです。)
(追記2:H24/9/12 本編を若干改稿し、初出の固有名詞ふりがな付けたバージョンをアップロードしました。))


 タイトルは

 「Grand-Welt」(グラン・ベルツ) 〜外郭のひとびと〜

 

 よろしかったら読んでみてください。
 舞台は現代(あるいは近未来)です。
長さは文庫本(創元推理文庫)換算で180ページ前後ぐらいです。

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 以下にサンプルとして小説の書き出しの部分を掲載しておきます。



  「Grand-Welt」(グラン・ベルツ) 〜外郭のひとびと〜
                                            神出拓馬

       箏也(1)

 いつのころからだっただろう。
 僕は人の輪を離れて遠くから眺めることが多かった。
 ふと気付くと、同級生たちは、互いに仲のよい友人を見つけ、なにげなく会話を交わし、笑いあっていた。
 それは、何度クラス替えが行われても同じ。いつも僕は気が付くと一人になっていた。
 面白い話が出来るわけでもない。流行の芸能人やドラマにも、他の級友ほど興味を持てるわけでもなかった。
 何度かカラオケにも誘われたけれど、別に歌をうまく歌えるわけでもない。当然、流行の歌など知らないし、歌えない。
 数年前に流行った曲を何度か調子外れに歌っていたら、そのうちカラオケに誘われることもなくなった。
 最初は寂しいと感じたこともあったように思う。でも、その寂しさにもいつしか慣れたようだ。
 一人でいたなら、会話のなかで変な返答をして、つまらない奴だと溜息をつかれることもない。
 一人は自由だ。
 そして、幸い学生の本分は勉学にある、とされている。
 自分はクラスメイトとうまくやっていくことは出来ない、だったらせめて勉学に勤しもう。
 僕はそうして数多くの本を読み、数多の物語たちに出会うこととなった。
 作家たちの生み出す物語世界はどれも、圧倒的な迫真性を持って僕を包み込んでくれた。
 僕はベネズエラの緑の館でリーマに恋をし、死に別れ、ビルマに1人残り、死者を弔って半生を過ごした。
 そうして物語の中の世界、それこそが真実の生なのだ、と確信するに至った。
 そう、それに比べれば、自分の生のなんとちっぽけなことか!!
 僕は、更に多くの物語にのめり込んでいった。
 来る日も来る日も、僕は物語を読み続けた。

 そして、己の現実の生を綿密に、より希薄なものへと変えていった。
 学校の成績は決して悪くなかったから、両親も僕が読書に耽るのを止めることはなかった。僕は静かに少しずつ、しかし確実に人間社会から切り離されていったのだ。
 
 そんな僕と現実との唯一の接点を見出すとしたのなら、それは僕の叔母、霧迦(きりか)の存在にあっただろう。

    *

 僕の叔母、印南霧迦(いんなみきりか)は不思議な人だった。
 彼女が今のように時を止める以前からずっと、ぼくと霧迦さんとの7歳の年の差を実感したことがない。
 おばさんと呼んでも彼女が怒らないのは、おおらかさなのかなんなのだろうか。
 「事実だし」
 そういって笑った顔は同級生の女の子たちよりもずっと子どもっぽかった気がする。
 この人の笑顔は本当にいつも変わらない。
 今、目の前でにこやかに笑う霧迦さんの横顔を見ながら、そんなことを考える。
 整った顔立ちだった。それは別に身内の欲目というわけでもない。
 彼女は以前には「美人過ぎるゲームクリエーター」として大手ニュースサイトで取り上げられたこともあった。
 彼女のデザインしたクリーチャーは、「なーがぁ」というまるっこい蛇を筆頭に、それぞれが不思議な愛嬌があって、携帯ゲームなどに登場するやいなや、瞬く間に人気を博していった。そして、C2からF1層をメインにM2層までと、幅広いライトゲーマーから小銭を定期的に奪い取るのに大いに貢献したのだ。
 ブログを書けば、毎日万単位のアクセス。僕のブログの20倍だ。彼女はささやかながら有名人の一人でもあったのだ。
 僕は彼女のことが好きだった。母の兄弟姉妹のなかでも一番好きだったと思う。幼いころから、親戚で集まったときなど、霧迦さんは、僕のことをいろいろと構ってくれたので刷り込まれたのかもしれない。彼女が身近にいる、その特権をありがたく感じたこともたびたびあった。そう、彼女の甥だからこそ、こうして今、会いに来ることも出来ているわけだ。

 そして、正直なところ、僕は霧迦さん以上に優しくてきれいな女の人を、他にみたことがなかった。

その印南霧迦が自殺した。

 いや、より正確にいうなら自殺未遂だ。

 彼女は生きている。医学上、生理学上では、彼女は生きている。

 そして、僕の目の前で今、にこやかに笑っている。

                         (続く)


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